月刊 「細胞」掲載論文

世界初のNASH - 癌動物モデル

当社のNASH-HCCモデルSTAMTMに関する記事が「月刊細胞」に掲載されました。


STAM™ マウスの開発とその非臨床薬効評価試験における 利用と大手海外製薬企業,アカデミアによるその活用実績

要約

本稿では,当社が開発した画期的な NASH- 肝癌動物モデル -STAM™ マウスの病態の臨床相関性および,米国・欧州を中心とした製薬企業,アカデミアにおける非臨床薬効評価試験での具体的利用実績等を用いながら,その利用法を紹介する。

1.NASH とは

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め,アルコール性肝障害など他の肝疾患を除外した病態であると日本消化器学会のガイドラインで定義されており,病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(NAFL)と脂肪肝から肝炎,肝線維化,肝硬変,最終的に肝癌に至るNASH に分類されている。NASH はNAFL と異なり,2 型糖尿病を背景疾患としてもっており,肝硬変や肝癌に進展しうる点が問題となっている。NASH-肝癌の発症機序は未解明のところが多く,その機序を解明し,治療介入することが重要である。しかし,今日に至るまで根本的な薬物治療薬は開発されておらず大きな社会的な課題になっている。治療薬の開発を困難にしている背景に,ヒトNASH 病態を再現した動物モデルがないことが大きな要因として挙げられる。

2.STAM™ マウスの開発

医療用医薬品の承認申請時に提出する薬理作用に関する資料に,“効力を裏付ける試験”が明記されており,in vitro およびin vivo(動物実験)での薬効評価試験が必須となっている。治療薬の開発における動物モデルの利用において,病態の発症機序が動物モデルで再現されているかどうか(再現性),臨床試験における主要評価項目を評価することが可能かどうかを考慮する必要があり,動物モデルの選択は,治療薬の薬効を評価する上で重要となる1)。 NASH の動物モデルは今日までに世界中の製薬企業・アカデミアから多数報告されている。例えば,遺伝子変異マウス(ob/ob, db/db など)や特殊飼料誘導マウス(MCD,DIO など)などあるが,線維化,発癌まで至らない,糖尿病を背景疾患として持たない,重度な体重減少が認められるなどそれぞれ問題点が存在しており,当社がSTAM™ マウスを開発した当時は,既存の動物モデルには薬効評価試験に適したものが存在していなかった(表1)。そのような情勢の中,当社は2 型糖尿病を背景に脂肪肝から,肝炎,肝線維化を経て肝癌を発症するNASH- 肝癌モデルマウスを世界に先駆けて開発した。


3.STAM™ マウスの臨床相関性

STAM™ マウスは,後期2 型糖尿病の背景を有し,脂肪肝,肝炎,肝線維化,そして肝癌へと病態が進行しヒトNASH と同じ病態進行を示す2)。他のNASHモデルマウスと比べて,短期間でヒトNASH と同じ病態進行が進行すること,且つ20 週齢時で100% 肝 32 (428)癌が発症する点に特徴がある。このようにSTAM™ マウスは20 週齢という短期間で100% の頻度肝癌まで発症する点において,既存のNASH モデルと一線を画すモデルマウスである2,3)。  STAM™ マウスは,ヒトNASH の病態を多く再現することに成功している。例えば,①ヒトNASH の特徴的である病理所見である風船様変性細胞,②線維化の進行に伴い脂肪滴が減少していくバーンドアウトNASH 現象,③線維化の進展が中心静脈周囲から生じる,④肝障害マーカーであるALT の軽度な上昇,⑤ CK-18 といったNASH マーカーの増加,⑥ヒトHCC マーカーであるグルタミンシンターゼ,グリピ カ ン-3,AFP の増加などが認められている。最近では,国内外のアカデミアから,ゲノミクス,トランスクリプトミクスおよびリピドミクスの包括的な分析によってSTAM™ マウスの臨床的相関性が実証されている。以上のように,STAM™ マウスは他のNASH モデルマウスでは再現できていない,多くのヒトNASH 病態が再現されている唯一のモデルである。本モデルは,新規性が認められ日本をはじめ米国,欧州他各国で特許を取得している。


4.新薬開発における STAM™ マウス

STAM™ マウスは,病理組織学的にヒトNASH と類似性が高い組織像を呈することから,臨床試験の主要評価項目にも設定されている線維化の程度やNAFLD Activity score で評価することが可能である。加えて,上述したようにSTAM™ マウスは,週齢により病態が異なり,NASH に対する予防試験または治療試験,線維化に対する予防試験または治療試験など治療薬の介入時期を変更することによって,様々な試験目的に対応することが可能である。そのため,国内のみならず米国,欧州などの製薬企業,ベンチャー企業およびアカデミアがNASH 治療候補薬の薬効評価試験に広く利用されてきた。STAM™ マウスを用いた薬効評価試験数は600 を超え,論文や米国消化器病習慣,米国糖尿病学会(2021 年発表予定)など海外の学会でその結果が発表されている。当社で評価したNASH 治療候補薬のうち,そこから臨床ステージにあがった被験物質は現在Phase 3 試験を実施しているCenicriviroc4)を含め15 化合物以上あり,NASH治療薬開発の一翼を担っているモデルとなっている(表2)。


おわりに

治験及び臨床研究に関する情報を提供しているデータベースであるClinical Trials.gov を見ると世界中で実施されているNASH に対する臨床試験の多くはearly NASH を対象に行われている。NASH の治療薬が1 つでも上市された場合,開発ステージは,early NASHから肝癌へ移行することが予想され,開発状況は一変する。STAM™ マウスは,NASH を背景に短期間で発癌するモデルであり,肝癌の治療薬開発にも貢献することが期待される。


  • 文献

    1. 1) 齋尾 武郎ら: 動物実験のヒトへの外挿可能性について, Clinical Evaluation vol 38, 385-392 (2010)
    2. 2) Fujii M et al,: A murine model for non-alcoholic steatohepatitis showing evidence of association between diabetes and hepatocellular carcinoma, Medical Molecular Morphology vol. 46, 141-152 (2013).
    3. 3) Takakura K et al,: Characterization of non-alcoholic steatohepatitis-derived hepatocellular carcinoma as a human stratification model in mice, Anticancer Research vol.34, 4849-4855 (2014).
    4. 4) Lefebvre E et al.: Antifibrotic effects of the dual CCR2/CCR5 antagonist Cenicriviroc in animal models of liver and kidney fibrosis vol 11, e0158156 (2016).