SSc-ILD model は、全身性強皮症における間質性肺疾患(Systemic Sclerosis with Interstitial Lung Disease)に対する新規薬剤候補の薬効評価に広く用いられている疾患モデルです。全身性強皮症(Systemic sclerosis)は原因不明の慢性結合組織疾患であり、皮膚や肺などの内臓に線維化を特徴とします。SSc患者の30〜50%でSSc-ILDの発症がみられ、さらにSSc診断から3年以内に約25%の患者が重度の肺機能障害を呈することから、SScにおける主要な合併症の一つとされています。
また、SSc-ILD患者(広範型)では、ILDを伴わないSSc患者(限局型)と比較して生存率が低下することが知られています。
SSc-ILDモデルの作製には、7週齢の雌性C57BL/6Jマウスの剃毛した背部に、1.0 mg/mLのブレオマイシン溶液を50 µLずつ1日おきに4週間にわたって皮下投与します。投与部位は、1.5 cm²の剃毛領域の四隅に設定し、順番に(1→2→3→4…)ローテーションして使用します。
サンプル採取用に皮膚を回収する際、侵襲による影響を最小限に抑えるため、穿刺部位と薬液注入部位を分けて設定します。
5 mm径の円形皮膚サンプルをダーマルパンチで打ち抜き、コラーゲン定量用サンプルとして使用します。残りの未処理皮膚部分は3つの長方形に切り分け、1つを組織学的解析用、2つを生化学的解析用に用います。
肺については、注入した固定液の漏出を防ぐため、左肺および後大静脈葉の気管支を結紮します。各マウスからは、組織学的解析用に固定した3葉と、遺伝子発現解析およびコラーゲン定量用に未固定の2葉を採取します。
Histopathological analysis
皮膚HE染色(相対的真皮厚、相対的脂肪層厚)
皮膚もしくは肺マッソントリクローム染色(相対的線維化面積、Ashcroftスコア)
Alpha-SMA染色
Biochemistry analysis
皮膚Sircolコラーゲンアッセイ(皮膚中コラーゲン量)
肺ヒドロキシプロリン量測定
Other parameters
体重
ニンテダニブはチロシンキナーゼ阻害剤であり、血管リモデリング抑制作用、抗線維化作用、および抗炎症作用を示します。本化合物はSSc-ILDモデルにおいて改善効果を示し、相対的真皮厚、皮膚線維化、さらに肺線維化においても改善傾向が確認されました。ニンテダニブは、特発性間質性肺線維症(IPF)の治療薬としてFDAに承認されていますが、間質性肺疾患を伴わない全身性強皮症患者(SSc without ILD)にも使用されています。詳細については、当社のブレオマイシン誘発皮膚線維化モデル(SSc w/o ILD もあわせてご参照ください。
ALK5 inhibitor IIは、細胞透過性を有する強力かつ選択的なATP競合型のTGF-β RIキナーゼ阻害剤です。本化合物は、皮膚線維化に対して有意な改善効果を示し、さらにAshcroftスコアにおいても改善傾向が認められました。
トファシチニブクエン酸塩はヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤であり、炎症経路に関与するJAK酵素の活性を阻害します。本化合物は、皮膚中のコラーゲン量、相対的な真皮厚、相対的線維化面積のいずれにおいても有意な改善効果を示し、さらにAshcroftスコアにおいても改善傾向を示しています。
ニンテダニブ(ALK5阻害剤)およびトファシチニブクエン酸塩はいずれも当社のSSc-ILDモデルで有効性が確認されており、いずれかをリファレンス薬として設定することで、貴社化合物の薬効との比較評価が可能です。